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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

八

それはわかっていたけれども、小姑根性とか、鬼千疋などと云われたことは、節子の身にすれば相当に痛かった。悲しいような口惜しいような、自分がまったく孤立したような思いで、すぐにも尾花沢へとんでゆきたいという衝動に駆られることがしばしばであった。

八

医者がびっくりするほど、病気は好調を続け、二月には起きて家の中を歩いたり、身のまわりを片づけたりするくらいになった。

その月の下旬に、泰馬が尾花沢へ巡察にいった。横目附としての出張である。節子はいっしょに伴れていって呉れと頼んだ、泣いて頼んだのであるが、山にはまだ雪があるし、道もまだ悪いし、医者が承知しないので、結局その希望はいれられなかった。

「これから役目で月に一度ずつ出張しなければならない、道が乾いて躯の調子さえよかったらいつでも伴れていってやる、だからこんどは待っておいで」

泰馬はこう云いなだめて立っていった。

兄がでかけたのと入れ違いだったろう、その翌日に思いがけなく英之助が来た。まったく思いがけなかったことで、節子はわれ知らず声をあげた。彼はすぐ山へ戻るからと云い、泥まみれのまま庭から縁先へまわって来た。