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おるすばん

おるすばん

壺井 栄

「少女の友」実業之日本社、1943(昭和18)年6月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,306 字 · 13 页

青空文庫

おじいさんのいでたちは、船乗り時代の黒いラシャの洋服でした。これを着て和子の子守りもしたのです。

「おじいさん、ハイカラぶって洋服着ていても、もう腰が曲りかけとるのに、そんな破けた洋服きて、あっといわせるもないわ。」

和子が笑いだすと、おじいさんはしんけんになり、

「何をいう。これでもまだおじいさんは七十四じゃないか。人生は八十からというてな、カ子がそんなこというてひやかすなら、一つあっといわせてやるからな。それができたらカ子じゃって喜ぶぞ。あの丸尾の畑にミカンを植えるのじゃ。」

そういっておじいさんは丸尾の畑を杖でさし、

「あすこは日当りがよいでな、ミカンはええぞ。肥料にはトリのフンが出るし、お父さんが戻ってくるまでにはものにしとかにゃならんわい。何ぞ一つ、お父さんの喜ぶものもやっとかんとな。そしてあっといわせようや。」

おじいさんの抱負を聞いているうちに、和子はふっと、あることに思いつきました。それは、モモ畑を作ることでした。お母さんが亡くなって以来、和子は何かにつけて母を記念するものを持ちたかったのです。一ばん心に浮んだのは、モモの木を植えることでした。