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おるすばん
おるすばん
壺井 栄
「少女の友」実業之日本社、1943(昭和18)年6月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,306 字 · 13 页
泣きやんだと思うて川下へ向くと、又じゃんじゃん泣きだす、それがお前、まだたんじょうもこん赤ん坊の時じゃった。」
和子の目の前に赤坊をおんぶしたお祖父さんの姿が、はっきりと浮かんできます。紅木綿の着物を着た赤ん坊を黄色いおぶい紐でおぶったおじいさんが、橋の上を行ったりきたりする姿は昨日和子が自分の眼で見たかのように思い出されるのでした。それは、今でも赤坊の時着ていた着物が、たんすの中にしまってあり、和子はそれを時々だしてながめているからでしょう。
「なにせ、おじいさんは、あの橋の上で、カ子になんぼか泣かれたか知れんて、すると、伝右衛門のおばさんが出てきて、カキモチなどくれたもんじゃ。そのうちおじいさんもちえがでてきてのう、いったん橋を渡っておいてそれから、一足進んでは二足戻り、二足歩いては三足戻りして、カ子をごまかしよった。」
「どうしてさっさと歩かないの。」
「そんなこというたって、授業の途中で乳をやるわけにゃいかんもん。」
「ああそうか。」
和子は初めて気づくのでした。和子のお母さんは小学校の先生だったのです。だからおじいさんはお昼と三時に学校までお乳をのませに、毎日通っていたのです。