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おれのにょうぼう

おれの女房

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页

青空文庫

納戸の襖はもとより、古くなった畳にさえすり切れたところに渋紙が貼ってある。低い天床、雨のしみた跡のある剥げた壁……彼は眉をしかめ、溜息をついて、そうして写生帖をふところにつっこんで、惘然と土間へおりる。

「どうするのさ、どこへゆくのさ、もうおつけが出来ようってのにどうするんだよ、でかけるならごはんを食べてったらいいじゃないか」

「おれならいい、食べたくないんだ」

「食べたくないって食べないでどうするのさ、また誰かと朝っぱらから飲むつもりかい、ああそれならそれでいいよ、幾らでものんだくれるがいいさ、あたしゃ知らないからさっさとおゆきよ、だけど仕事のことはどうするんだい、阿波屋の旦那が来たらなんて云うのさ、いつもいつもまだ出来ませんじゃ、あたしが挨拶に困るじゃないか、なんて御返辞をすればいいのさ、こんどはなんとかはっきりしたことを云わなきゃ、幾らなんだって――」

又五郎は蒼い沈んだ顔つきで、黙って路地を往来へと出ていった。

晩秋の曇った朝で、鼠色の雲が重たげに層をなして、空いちめんを隈なく掩っていた。風は少しもないが、気温はひどく下り、まるで雪でも降りそうに寒かった。