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おれのにょうぼう

おれの女房

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页

青空文庫

又五郎は初めから信近にてすじのよさを認められ、十八のときには近恒という号を貰って、塾ちゅうの麒麟児などといわれた。

お石はそのころ狩野家の小間使で、躯は小さいし、かた肥りで不恰好だし、うす菊石のある顔だちも栄えなかったが、気性が明るく動作もてきぱきして、粗忽なところもあるが、たいへん気はしが利くため信近の気にいりで、もっぱら工房関係の用をしていた。

彼女が又五郎に好意をもちはじめたのは、彼が「近恒」の号を貰ってからである。お石は彼そのものより、彼の手腕と将来にほれこんだらしい。お石は彼に対する自分の気持を隠さなかった。もちまえのてきぱきした解放的な性分で、彼にもあからさまに好意を示したし、ほかの門人や女中たちにも平気でそれを話した。

――あのひとは男ぶりも悪かあないけど、あたし男ぶりなんかに惚れたりしやしないよ、あのひとはきっといまに名をあげる、うちの先生の上を越す絵師になると思うんだよ、それだからあたしゃ惚れたのさ。

御殿絵師の家といえば格式があって、武家と同じように礼儀作法がやかましい、召使なども決してこんな品の悪い言葉づかいはしないものであるが、お石は平気でずけずけとまくしたてた。