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おれのにょうぼう
おれの女房
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页
まわりの者には笑止でもあり、こづら憎いはなしであった。ちんちくりんで、縹緻も悪く、品のないお石などが、狩野家の麒麟児とまでいわれる近恒を、すでに自分のものかなんぞのように触れまわす。これは誰が考えてもばかばかしい、独りよがりの妄想というほかはない。
――お石さん祝言はいつするの。
朋輩の女中たちはそんなふうに云いながら、かげではいい嗤い者にしていたのであった。
又五郎は二十三歳のとき、師の信近に叛いて狩野家を出た。御殿絵師というものの生活もいやになったし、古くさい、概念と規矩の枠にはまりきった、進歩も創造もない画風にあきたらなくなったのである。
古典はもうたくさんだ。御殿絵師は古典の糟糠を弄するにすぎない、絵とはもっといのちのかよった未知の真を創りだすものだ、おれはおれの絵を描きたいように描く。彼はこう云って、師の信近に叛いた。
彼は若かった。そして伝習に叛くということに、一種の誇りとよろこびを感じた。その気持がまたお石を妻にする動機にもなったのである。彼はお石が自分に好意をもっていることも、それが狩野家の人たちのもの嗤いになっていることもよく知っていた。