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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页
あれでは値の高い道理ですよ」
と甲が言った。
「はゝあ、私は乾からびたのしか見たことがありませんが、あれでも元来は生きているものですかね?」
と乙は剽軽な受け答えをした。斯ういう時には得て話のはずむものだ。
「去年の夏伊勢へ商用で参りましたが、帰途に阿漕から桶を担いだ男が乗りました。客車の入口のところに立ったまゝ絶えず天秤棒を揺っている様子が如何にも狂気染みていましたから念の為めに訊いて見ますと、鮎だと言うのです」
「動悸っとしましたね? あんたは、鮎というと目も鼻もない」
「雲出川の鮎を京都へ持って行くのだそうでした。鮎という奴は家つきの娘ぐらい気むずかしいものです。桶の水が川の瀬ほどに動かないと承知しません。それも死ぬの生きるのと言わずに突如上ってしまうから溜まりません。そこでその男は笠置に待っている相棒に渡すまで荷を揺り通しです。笠置から新手がまた京都まで揺って行きます。昔なら早駕籠というところですな。阿漕からも参りますが、笠置からが主だと言っていました」
「そんなにして京都まで行ったら嘸高いものにつきましょうな?」
「二十銭の鮎が京都に着くと一円五十銭になるそうです。