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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

「何だい? 涼しさに四ツ橋を四つ渡りけり……か。こんなものが此処にあったかなあ?」

と小川さんは来山の句碑を見詰めて、

「四ツ橋を四つというと四々十六度渡った勘定になるね。悉皆で」

「否、つい四つ皆渡ってしまったという丈けの意味さ」

とお父さんが解釈した。

「それじゃ当然で発句に読むほどのこともない。何うも僕には発句は分らない」

「両方に鬚があるなり猫の恋……なら分るだろう? 矢っ張り来山だよ」

「それなら分る。両方に鬚があるなり……か。成程、面白い。猫は確かに牝でも鬚がある」

「それぐらいなら低能でもないよ」

「恐れ入ります」

間もなく心斎橋へ出て賑かな通を歩き始めた。

「実際人口稠密だろう? この筋が大阪では代表的さ。昔のまゝだから少し狭いけれどもね」

と小川さんが紹介した。

「成程、人出は銀座や日本橋以上だ。この筋だね、榊原君の親父さんが若い時夏帽子を買って翻然と基督教に帰依したのは?」

とお父さんが言った。

「榊原の親父が何うしたんだい?」

「余程閑だったと見えて夏帽子を一つ買うのに心斎橋筋の唐物屋を端から端まで冷かして歩いたんだそうだ。何軒訊いても要するに値段は大同小異だったが、一番始めの店のが矢っ張り一番好いように思えたので、又引き返して行ってそれを買ったんだそうだ。