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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

五島の向こうね? ……五島の向こうは、ずうっと向こうまで、ずうっと、ずうっと向こうまで、やっぱり海よ。青い青い海よ。ええ、この色よ。すずめ鳴け鳴け、もう日はくれる。みんな呼べ呼べ、お星さま出たぞ……お月さまも出たよ。こんな大きなお月さまが、海から出たよ。ずうっと向こうの海から出たよ。兄ちゃんと二人で見たよ。まるいまるいお月さまだったよ。浪の音が、どおうと……どおうう……とひびいていたよ。五島は夜になるとさみしかったのよ――」

二人の子は一昨年五島へ行った。昔の夢がそのまま残っているような島だ。朝起きると子供たちは牛をひいて牧へ登る。子牛は先に立ってぴょんぴょん跳ねながら、自分の足音に肝をつぶして親牛のところへ駆け戻る。牧へ登りつくと牛の鼻綱を解く。牧は島の真ん中の高みにあるので、四方から子供たちが牛をひいて集まって来る。牛は牛づれ、子供は子供同士寄り合って、昨日の夕方別れてからの出来事をさも大事件であったかのように話し合う。牛仲間にも好ききらいはあると見え、いっしょの組になるのはいつも決まっているのだった。子供もそうだった。椿の木の下に座る組もあり、野石にまたがって歌う組もあり、雲雀や雉の巣を探してまわる仲間もあった。