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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
三年目の春、すでにこんもりとした茂みになって、いま、門辺を過ぎる人ごとに、いいわねえ、と心を楽しませて通る。この原子野に住む人も、ようやく花を賞でるゆとりをもってきたようだ。これから家ごとに花を植えてくれるだろう。早く瓦を片づけて、花咲く里にしたいものだ。
カヤノが一枝切ってきて、枕もとの花びんにさしてくれた。朝のうちにつぼみがふくらんでいたのが、昼ごろにはほころび、夕方には初々しい深紅に咲き開いた。そのころには鉛筆の先に紅をふくませたように次のつぼみがふくれていた。こうして、次から次に花は枕もとに咲いた。よく見ていると、葉も大きくなってゆく。つるばらの一枝は花びんの中で、門辺の元の木と同じく成長を続け、実を結ぶために、虫の目をひく美しい花を咲かせている。
この一枝を見ていると、四、五日もしたら、あえなく枯れる気色は見えない。いかにも生気があふれている。希望にみちている。そして現にどんどん仕事をしている。幹は花びんの水をせっせと吸い上げている。若葉の細胞は増殖をやめない。つぼみの中は紅の色素を作るのに大馬力をかけている。
枝はカヤノの手で折られているのだから、いくら葉を大きくしたところで、しょせん五日と保てはすまい。