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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

この私とこの母との間に交わされた愛が、どこにでも通用するはずがなく、代用愛で間に合うわけがない。

私が広西戦線から帰ったとき、父は世を去っていた。新しい墓の前に立った私の心に、父と私の間に再び得難い愛の存在していたことがひしひしと感じられた。村人は傍らで若先生も老先生そっくりだ、声だけを聞いていると、老先生が生き返りなさったのかと思うほどだ、などと話していた。この父の体質や気質が私にそっくり遺伝していると思うだけでも、この二人の人間の間は、人の力などをもって一寸も動かすことのできぬきずなで結ばれているのを認めざるを得なかった。

私はすでにイク子、ササノの二人の子を天国に送った。ありし日のあどけなさは今だに目から消えない。白百合の花に埋まって送られていったあの子。……あの子がその死病にかかったとき、他人の子の同じ病気に向かっては落ち着いて診察もし治療もする医者でありながら、わが子の小鼻を動かしてあえぐ様を見ては聴診器も注射器も手につかず、ただおろおろとするばかりの一途の私の感情であった。

妻なきあとの誠一とカヤノの振る舞いをじっと見つめていると、わが子が母を慕う心は、私が妻をしのぶ心の幾層倍も深いことが悟られた。