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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

孤児

「何人といえどもこの子の前に、お父さん、お母さんと称えて立ちあらわれることを許さぬ!」

孤児

私がまだ講義に出かけていたころ、二年ばかりも前のことだが、停車場や市場でよくこんな声を聞いた。――

「ちょいと、荷物に気をつけな。そら、きょろきょろ目玉を光らして孤児が来よるぞ」

また、

「まあ、ごらん、あの子を。あれ、きっと親なし子よ。かわいそうにねえ。さあ一郎、この五十銭を持っていってあの子におやり……。ちょっと。あのね、手や着物に触らぬように、離れていて渡すんですよ。シラミがうつるから――」

また、

「ちぇっ、せっかく早起きして作ったお弁当が臭くなってらあ。夏分はいたむのが早うござんすなあ。――捨てるのも、もったいないし。――おお、ちょうどよい。あすこに孤児がいるよ。おうい、そこの子供。おうい。お前だ、そのボロを着た。――うん、こっちへ来い。小父さんがご馳走をやるから ……」

また、

「おい、お前、ちょっと来い。お前の生まれはどこだい? ――ふうん。親は無いのかい? ――ふうん。おやじはいつ死んだのかい? ――ふうん。爆弾でかい? ――ふうん。頭か足か何か残っとったかい? ――ふうん。