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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
うす板の垣に隔てて世を知らず、世に知られず、ひたすら神の教えを実行している汚れなき一団。聖母マリアにすべてを献げ、マリアのために生き、マリアと共に生き、マリアによりて生き、マリアの中に生きている一団。雨が降れば神に感謝し、空が晴れると神に感謝し、風が吹けば神に感謝し、顔洗う水が凍っては神に感謝する人びと。元気がよいとて神を賛美し、虫歯が痛むとて神を賛美し、けがをして神を賛美する詩人たち。ご馳走をいただけば喜び、腹がへれば喜び、かぼちゃを盗まれると喜ぶ。子供からじゃれつかれて微笑み、若者から石を投げられては微笑み、老人から怒鳴られて微笑む。
この修道院は、いち早く孤児の世話をやり始めた。しかもなんの準備もなく、予算もなく、設備もなくやり始めたのである。というのは、この修道院は戦争末期に建物を軍に接収され、修士たちは阿蘇山へ軟禁されていたため、敗戦後、建物を返され、修士も山から帰っては来たものの、さんざんな目にあって、修道院自体の整備態勢がととのわなかったからである。そのごたごたしている最中へ、山伏が二人の孤児を連れて来た。原子野の防空壕に生きていた魚屋の子だった。