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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

さらに、われのみ災難のため、こうも痛みを受けねばならぬとは、しゃくに触る。他の指九本みな生爪をはがしてくれたらいいのに……などと、のろいを掛けたら、それこそ許されぬ罪をわが犯すこととなる。

――苦しみを体験したことのない人は無邪気である。辛い目に会うたことのない人は無遠慮である。心に傷のない人は鈍感である。自分が鈍感だから、敏感な人がそばにいることに気がつかない。そうして無邪気に他の人の心の傷に触る。無遠慮に他人の胸の痛みを刺激する。それも、傷に触ると知らず、痛みを起こすことも悟らず、天真らんまんとやっているのだから罪はない。罪はないけれども、やられたほうはひどい目にあう。――居候・やっかい者・まま子・連れ子・ひねくれ・ぐず・お世話・ご恩・真人間……言うほうはなんでもない当たりまえのように使っている言葉。しかし聞く孤児のほうには……

孤児が真実孤児の道を歩こうとすれば、いやでもおうでも、耳には痛い言葉が入り、目にはつれない仕打ちがうつる。耳をふさぐことはできない、目をとじては歩けない。痛い言葉を聞きながら、つれない仕打ちを見つめながら、ひたすらごまかしのない道を進むよりほかはない。