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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
と子供が聞いている。
「禍は試練となり、罪のつぐないとなり、戒めとなり、後の世の幸福のもとになるからであります」
「なぜ禍が後の世の幸福となりますの?」孤児の問いは切実である。
「――わがために人びとなんじらをのろい、かつ迫害し、かつ偽りて、なんじらに就きてあらゆる悪声を放たんとき、なんじらさいわいなるかな、歓び躍れ、そは天におけるなんじらの報い甚だ多かるべければなり。――これは有名なイエズスの山上の説教のおしまいのことばです。さいわいなるかな、歓び躍れ! 天国のごほうびはどんなに大きいでしょう」
目を輝かして聞いている子供たちが見えるようだ。
ここは三階が孤児の世話をしているマリア園、二階が女子中学校と高等学校とある信愛学園、一階が幼稚園となっている。
そこから山路を上にとって、また五百メートルばかり行くと、修道院の別館に至る。そこを山の家といって、体の弱い孤児や病気の孤児を看病している。黒衣の修道女が牛乳をしぼっている。まぐさを山から刈ってくる者もいる。野菜畑でくわを使っている黒衣の姿も見える。にこにこと、おむつを洗っている老いたる修道女もいる。みんな沈黙を守って、明るい表情でひたすら労働している。