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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと

さまよう町のさまよう家のさまよう人々

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年7月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,916 字 · 75 页

青空文庫

茲に顔を知らない同幇匪同志の初対面の挨拶ぶりを書いて見る。先ず甲匪が外埠に行って茶館に上ったとする。するとこの土地の同幇と馴染になって置く必要があるので、暗号で同幇に知らせる。即ち茶碗の蓋を仰向けにして茶碗の側に置くとか、或は酒店ならば箸を杯の右側に置くとかしてその外店先に看板を出して置く。するとその土地の幇匪が来て暗語問答をする。

乙「老大(初めての幇匪にはこんな尊称を用うる)は門檻に在りますかい」

すると甲匪は立って不動の姿勢で答える。

甲「祖爺の霊光に沾いません」(これは入幇の意)

乙「そのお方(師父を指す)はどなたです」

甲「馬が名前で、上が徳、下が坊」(馬徳坊というのは上海で有名な青紅幇の匪首である)

右のように名を三つに分って呼ぶことは、幇匪中の子弟が師父に対する敬意だそうである。

乙「貴方の名は何というんですか」

甲「江淮四幇です」(幇には皆名がある)

乙「老大は何の字を持っていますか」

甲「頭には二十一世脚には二十二世でわたしの身は二十二世です」(二十二字目は通の字に当る)

乙はここで甲の着席を勧めつつ尚尋ねる。

乙「あなたの方では現在どこの碼頭を占めていますか」