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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと

さまよう町のさまよう家のさまよう人々

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年7月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,916 字 · 75 页

青空文庫

その力

甲「只今△△碼頭です」

乙は尚暗号のことなどを尋ねるが、それが一通り終ると今度は甲が乙に対し同じようなことを尋ねる。そして乙の方が甲より上の位であった時は、甲は座を離れて鞠躬の礼をする。と乙はこれを扶け起し着座を命ずるが、やっとしてから甲は席に返る。等級の相違に由る礼儀の差別は中々やかましい。

甲よりも兄貴分だと判った乙は、そこの茶代は勿論、それから旅館に連れて行って一切の費用も出してやるし、又土地の者をそこに三日間招待してその費用も乙が負担せねばならぬ。三日過ぎたら大抵その縄張りを出て行くのであるが、若しもっと永くそこに留まろうとすれば、それ以後の費用は勿論甲の自弁である。

その力

幇勢最も盛んな時は、上は役人より下は游民に至るまで、あらゆる階級の人々を吸集し、清末頃からは女入幇者も沢山あるようになった。蓋し入幇して居れば幇勢を駆って自分を社会的安全の地位に置くことが出来るからである。今左に入幇人物に就て少し書いて見よう。

青幇に役人が入るというのは一寸嘘のように聞えるが本当のことである。というのは青幇も今でこそ匪賊になってしまったが、初めて起した時は清朝を護るという目的で、強盗邪淫等を戒め、仁義礼智信を奨励したものである。