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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと

さまよう町のさまよう家のさまよう人々

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年7月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,916 字 · 75 页

青空文庫

十一

そうです、次女の潮子さんが。鉄也氏が行衛不明になったのも、矢張り八月二十日という日で、この日附は全く柵家にとり、呪う可き日でなければなりませんなあ。

そうして今度は末女の初枝さんが、愛人の細川繁青年によって、殺されなければならないような、悪運命に遭遇しているのです。

十一

尚私は十五分ばかり、初枝嬢と話をしていました。

と、ドアをあけて一人の婦人が、部屋の中へ這入って参りました。

それは絹子夫人でした。

私の方では知っていましたが、夫人の方では知らなかったので、咎めるように云いました。

「おや初枝、お客様なのかい。……失礼ですけれど何ういうお方かね」

初枝嬢が何んにも云わない先に、私から立ち上がって云いました。

「細川君の友人でございまして、松城昌三と申す者です。今後は何卒お心安く……」

「細川さんのご友人、おや左様でございましたか」

夫人は何んとなく疑わしそうに、私をジロジロ見廻わしました。

有名な美貌の持主でしたが、一つは年、もう一つは、重なった不幸に打ちひしがれ、すっかり悌を変えていました。

それでも体格は立派であり、よく洋装が調和って見えました。