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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと

さまよう町のさまよう家のさまよう人々

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年7月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,916 字 · 75 页

青空文庫

「よくご存知でございますのね。そのとおりなのでございます」

「そこで夫人にお訊ねしますが、いかがです私を追っ払いますか」

「飛んでもない、そんなことを……」

「では結構、それでよろしい」

「でも、妾は恐ろしくて……」

「恐ろしいのは当日だけです」

「…………」

「八月二十日だけが恐ろしいのです」

「…………」

「いずれお訪ねしてお話ししましょう」

そこで電話を切って了いました。

それから私は考えました。

自分が柵家へ行ったことと、今度の事件へ踏み込んだことを、幾人の者が知っているだろうかと。

(細川繁と絹子夫人と、初枝嬢との三人だけだ)

答えはすぐにこう出ました。

では三人の中の何者かが、青幇の連中へ俺のことを、内通したと解さなければ不可ない。

そこで青幇の連中が、柵家と俺とを隔てようとしたのだ。

(いや、もう一人あるらしいぞ)

が、私はそんなことより、繁青年の訪ねて来るのを、心待ちに待って居りました。

これほどの重大事を頼んだ彼です。私と柵家との会見の様子を、知り度いと思って訪ねて来るのは、当然のことでありますからな。

(来たら断乎として訊いてやろう)

そう私は腹をきめていました。