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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと
さまよう町のさまよう家のさまよう人々
国枝 史郎
「探偵」1931(昭和6)年7月~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,916 字 · 75 页
十八
(変だな)
と私は思いました。
夜遊神などというものは、のっけに代価を云うものですのに、この女はそれを云いません。
夜遊神などというものの巣は、あさましいみすぼらしいものであって、よい音楽だの、よい風呂だの、よい絵画だのよい盆栽だのと、そんなものを備えてなんかいない筈です。
それだのにそんなものを備えているという。云い方に嘘は無さそうである。
(変だな)と思わざるを得ませんでした。
「一体どこへ行くんだい。何処へ連れて行ってくれるんだい?」
真面目に私は訊いて見ました。
すると女も真面目に答えました。
「さまよう町の、さまよう家の、さまよう人々の所へ。……ね。ご一緒に参りましょうよ」
十八
私は一瞬間ぼんやりし、次の瞬間には用心しました。
この私の心の動揺は、貴郎にも解っていただけるでしょうね。
全く驚かされて了いました。
だって然うじゃァありませんか。
私が知り度いと熱望していた「さまよう町の、さまよう家の、さまよう人々」のいる所へ、そんな夜遊神が連れて行ってくれると、余りにおあつらえ向きに云ってくれたのですもの。
私はつくづくと女を見ました。
と、卒然と心の中へ、一つの疑問が浮かんで来ました。