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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと

さまよう町のさまよう家のさまよう人々

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年7月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,916 字 · 75 页

青空文庫

二十一

が、大体に上の町よりも、ずっと遥に質素であり、みすぼらしくさえありました。

ひとつにはこの町に不思議な程にも、人が住んでいないからでした。

いや嘗ては住んでいたが、現在は、少くも今日の夜は、殆ど誰もが住んでいない。――と、そんなように思われるのでした。

往来についている電燈の光も、で、ずっと暗くあれば、家々の窓からは云い合わせたように、燈火の光が洩れて来ないのでした。

さよう事実そうなのでした。

どの窓からも電燈の光が、殆ど洩れて来ないのでした。

勿論まばらに、ほんのたまたま、往来を人が通りましたが、その人が上の町の人とは異い、サラリーマンか高級労働者かと、そんなように思われる人ばかりでした。

二十一

私は更にもう一つの坂を、下の方へ下って行きました。

と、また町がありました。

しかしその町は私の心を、憂愁にさせるに足るばかりの、陰惨としたものであり、事実私は夫れを見て、憂愁の想いにとらえられました。

その町は寧ろ町というより、巨大な数個の合宿所――それも貧しい人々の、合宿所の集団そのものであると、そう云った方がいいような、そう云ったようなものでした。