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さるすべり

さるすべり

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,095 字 · 24 页

青空文庫

多紀勘兵衛が天守からおりて来て云った、「騎馬隊のあとからだいぶ徒士がはいって来ました、どうやら夜襲の構えとみえます、用意を致して置きましょうか」かれはうんと云ったきりだった。「まだ隊の持場もきまらず、銃隊と弓組の割当てもございません、いまのうちにきめて頂きたいと存じます」「……そうだな」かれはゆっくりと答えた、「だがまあ、とにかくめしにしよう」

食事のときにかれはふいと自分の子供のことをはなしだした。隊士たちは夜襲のことがあたまにあるのでそれどころではなかったが、治部介はゆったりした調子で、いかにも楽しそうに笑いながら話した、「おまえたちも知っているとおり、荒雄川はなかなか癖のある川だ、急流というほどでもないのに、淵や淀が多くて、到るところに下へひき込む瀬がある。伜はまだ七歳の小坊主だけれども、手作りの※(「竹かんむり/措」、第4水準2-83-70)であの川へとびこんでは魚をあげてくるそうだ、この春などは鮭を四五十尾もあげたそうだ」「これは初耳です、あれへ鮭が登りますか」「はて、鮭ではなかったか」みんな思わず笑いだした、そしてそれがきっかけのように、みんな気持がほぐれ、つぎつぎと故郷の話をだしはじめた。