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さるすべり

さるすべり

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,095 字 · 24 页

青空文庫

翌日になると敵はぐっと陣を進めたが、時おり銃撃をしかけてくるだけではかばかしいことはなかった。……しかしそのつぎの日に敵の一隊が巽曲輪へ侵入して来た。人数は少なかったが必死を期した突撃だった、治部介はこれを二の丸までひきこみ、桝形へ追いつめて殲滅した、そしてこれが戦の口火となり、息もつかせぬ敵の攻撃がはじまった。

治部介は自在に戦った、あるときは敵を本丸までおびき込み、つぎには大手門の桝形で捕捉した、城壁の上からとつぜん石材や巨木を投げおろすかと思うと、闇をついて侵入する敵兵の中へ、いきなり燃えさかる松明を幾十百本となく擲げこみ、混乱に乗じて斬り込んだりした、けれどもむろん味方にも損害があった。開戦三日めには討死十余人、負傷で動けない者がかなりできた、「お願いです、斬って出させて下さい」血気の兵たちがそう云いはじめた、治部介は首を横に振った。「籠城というやつは痺れのきれるものだという、おれたちは初めてその味を覚えるんだ、まだまだ、このくらいで痺れをきらしてはならん、本当の味はこれからだぞ」

そのときかれらは外曲輪にいたが、もの見の兵がとつぜん城壁の上で誰かこっちへ来る者があると叫びだした、「城下町の辻から走って来ます、どうやら味方の者のようにみえます」