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さるすべり

さるすべり

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,095 字 · 24 页

青空文庫

「およそ二千ほどでございましたろうか」

「なぜ使をよこさなかった、いつでも援軍を出すと申してあったではないか、其許のひとがらなれば、よもこんな強情いくさはしまいと思って推挙したのだ、それがこのありさまとは、……このありさまとは」

「お言葉ではございますが」治部介はしずかに云った、「こなたさまの御意はよくわかっておりました。しかし援軍を頂いてはならなかったのです、初めからそのつもりはございませんでした」

「初めからとは、それはどういうわけだ」

「小山から密使のみえましたとき」と治部介はそのときを回想するように、「わたくしは衝立屏風のかげにいて、ごしゅくんとお使者との密談をはからずも耳にいたしました。そのとき小山の軍令は、白石城を退去して伊達軍を安全の位置にさげ、上杉を会津へくぎづけにせよとのことでございました」

「それはわかっている、それだからどうした」

「もしもわたくしが援軍を求め、白石を挾んで合戦となりましたら、小山の軍令に反くことになりは致しませんか、白石を撤退せよという軍令は、わが軍と上杉とを戦わせたくないためです、合戦は運のもので万一にも敗れる場合があるかもわかりません、その万一のないように撤退ときめられたのです、わたくしはただ全士討死の覚悟でございました」