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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

弥五は戸口を見て首を振り、「あっちへいって遊びな」と云った。律之助が見ると白痴の直次郎が戸口に立っていた。彼は律之助に笑いかけ、「あ、あ」といいながら、手に握っている菓子を見せた。

「旦那の仰しゃることはわかってます」と弥五は云った、「が、まあ聞いて下さい、私の十五のときのことですが、人に頼まれて賭場の見張りに立ったことがありました」

弥五は賭場の見張りとは知らなかった。小遣い銭が貰えるので、云われるとおり見張りに立ったのだが、手入れがあって、みんな逃げたあと、彼一人が捉まってしまった。それから目明しに責められた。

――きさまの親分の名を云え。

――賭場へ集まった者は誰と誰だ。

ちょうど賭博厳禁の布令の出たときであった。自分は知らずに頼まれたと云ったが、てんで信用しないし、拷問にかけると威され、恐ろしくなって、頼んだ男の名を告げ、その人に訊いてくれればわかると云った。するとその目明しは、――その男となにか利害関係があったらしい、――この野郎でたらめをぬかすな、といって殴りつけた。

「その目明しは云いました」と弥五は微笑した、「そういうことが云いたかったら、人のいないところで壁か羽目板にでも云うがいい、そうすれば痛いめにだけはあわずに済む、覚えておけってな、――まったくです」