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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

九

頼んだのはお絹と話したいこと、そしてお絹との対話を、隣りの部屋で記録してもらうことであった。

「その役の者を二人控えさせました」と志村が用意のできたことを知らせた、「二人とも達者ですから、懸念なくお話し下さい」

律之助は「よろしく」といって立った。

詮索所へゆくと、もうお絹が坐っていた。ほかには誰もいず、狭い白洲は、黄昏ちかい片かげりで、いかにもひっそりと、うすら寒げにみえた。お絹はこのまえと同じように、おちついた静かな顔をしていた。

「おまえに知らせることがあるんだ」と律之助は口を切った。

九

お絹は黙って眼をあげた。

「おまえはこのまえ、父親や弟のことはもういいんだ、といったな」と彼はいった、「二人のことはもう心配はない、といったように思うが、そうじゃなかったか」

お絹はけげんそうな眼をした。

「どうしてですか」と彼女はいった。

「稼ぎ手のおまえがいなくなったあと、寝たっきりの親や、あたりまえでない弟がどうして生きてゆくか、私はそれが心配だった」と彼はいった、「おまえは気にしていなかった、それで、なにかわけがあるのかと思った、稼ぎ手のおまえがいなくなっても、二人が安楽に暮してゆけるような、なにか特別な理由でもあるのかと思った、そうじゃあなかったのか」