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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

十

「清太郎を呼んでやろう」と彼はいった。

「あたしいってやります」とお絹はいった、「あたしも約束を守ったんだから、あの人も約束を守って下さいって、――あたしそういってやります、ええ、きっとそういってやります」

十

律之助は高木新左衛門と酒を飲んでいた。

三十間堀の船宿の二階で、外は雨であった。あけてある窓から、対岸に並んだ土蔵と、その上の、鬱陶しく雲に塞がれた雨空が見えた。

「清太郎は逃げようとしたのか」

「その晩、菱垣船に乗ろうとした」と律之助がいった、「それでしかたなしに、梶野は縛ってしまったらしい」

「ばかなもんだ」と高木がいった、「――しかし、お絹が口を割ったとすれば、居据ってしらをきるわけにもいかなかったろうがね」

「もちろん親が逃がしたのさ」

「殺したのは、――」

「二人が逢曳をしているのを見たんだ」

「ふん」と高木はいった、「金持のひとり息子か、……ああいう手合にはよくあるやつさ、大地主で、質両替商で、家主で、土蔵には金が唸っている、金で片のつかない事はないと思ってるんだ」

「おれはまいった」

「長屋の連中もつかまされたんだな」と高木がいった、「貧乏ということは悲しいもんだ」