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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
――律之助が入ってゆくと、もうその娘は白洲に坐っていた。彼女の右につくばい同心、うしろに牢屋下男が二人いた。
「二人だけで話したい」と律之助は志村に云った、「どうかみんなここを外してくれ」
志村は承知し、かれらは去った。
二人だけになるのを待って、律之助は縁側へ出て坐った。
「私を覚えているか」と律之助が娘に云った。
お絹はゆっくりと顔をあげた。
鼠色の麻の獄衣に細帯、髪はひっつめに結ってあり、もちろん油けはない。躯はほっそりしているが、働き続けてきたので肉付はよく、腰のあたりが緊ってみえた。おもながの、はっきりした眼鼻だちで、顔色も冴えているし、眼もおちついたきれいな色をしている。
「はい、――」とお絹は云った、「見廻りにいらしったのを知っています」
「私はこんど吟味与力になった」
お絹は彼を見あげた。
「それでおまえの事件を再吟味するつもりだ」
「どうしてですか」とお絹が云った。
「本当のことを知りたいからだ」
「あたしはみんな申上げました」
「私は本当のことを知りたいんだ」
「あたしはすっかり申上げました」
「いや、そうではない」と律之助は云った、「大事なことが幾つかぬけている、それをこれから訊くから正直に答えてくれ」