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そのきどをとおって
その木戸を通って
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页
とまで云った。彼としては、あいそ笑いをしているところへ水でもぶちかけられたようなぐあいで、少なからずむっとせざるを得なかったのである。
「国許の人間は聖人君子ばかり、とでも云いたげな口ぶりじゃないか」外へ出ると正四郎はいまいましげに呟いた、「誰かのいやがらせでなくってどうしてこんなことが起こるんだ、江戸ならもうちっと気のきいた手を打つぜ、へっ、田舎者はすることまで間拍子が合やあしねえや」
正四郎は唾を吐き、すると、空腹なことに気がついた。よし、梅ノ井へいってやろう、と彼は思った。慰労の宴はちょうど活気づいたじぶんだろう、でかけていって暴れ飲みをしてやるか、そう思って彼は石垣町のほうへいそいだ。――正四郎はよく飲み、よくうたい、よく踊った。一座の中に敵でもいるような挑戦的な気分で、騒ぐだけ騒いだうえ酔い潰れてしまい、勘定方の者二人に、家まで担がれるようにして帰ったそうであるが、自分では殆んど覚えがなかった。
翌朝、眼がさめてみると、雨が降っていた。三日間は慰労のため非番なので、誰も起こしに来ないのをいいことに、もう一と眠りと思ったが、酔いざめの水を飲んでいるうちに、ひょいと顔をあげ、そのまま、なにを見るともなく眸子を凝らしていた。