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そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页

青空文庫

「そのうえ御城代の御息女と縁組ができたのですから、私に好意を持つ者ばかりはないでしょう」と彼は云った、「ことによると私が江戸にいたころの噂を知っていて、いたずら半分に縁組だけでも破談にさせようと」

「ばかなことを」と田原は遮った、「仮にも侍たる者が、そんな卑しいまねをする筈はない、そんなことを想像するおまえ自身を恥じなければならん」

国許は国許同志であいみ互いか、と正四郎は心の中で思った。

「はい、では私自身を恥じます」と彼は云った、「それと、娘はすぐに出てゆかせるように命じましたから、どうぞお含みおき下さい」

「覚えておこう」と田原は頷いた。

田原権右衛門は昔から、父の勘解由と親しくつきあっている。そのため彼が江戸から来ると、父の依頼で監督者のような立場になった。城代家老の加島大学が、娘を遣ろうと云いだしたのも、権右衛門の奔走らしいし、ともえという加島の娘も、彼はたいそう気にいっており、たとえば彼女が足軽の娘であっても、ぜひ妻に貰いたいと思うくらいで、正四郎は大いに田原老職に恩義を感じていたのであるが、こんどの出来事でその熱が少しさめた。城中で呼びつけたときの態度も冷たかったし、今日はまた面と向って、「自分を恥じろ」