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あじさい

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集

佐藤 春夫

佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页

青空文庫

「あの表情から見てもお祝いだ。この縁談はきっと良縁なのだよ。何にせよ」とわたくしは云った「この妙なことが少しも気味が悪くないのだからそれが不思議ではないか」

「一たい見える人には何の不思議もなく見えるものらしいのね。みんなそう云っているわ」と神がかりの妹はその仲間うちの話などを語り出したものであった。

わたくしは、心霊研究にうき身をやつしていると聞く長田幹彦の家ではその亡妹が家族の一員としてその家に住んでいていつも廊下などで人々とすれ違ったりするのを何人も怪しまなくなっていると彼の書いているのを読んだことを思い出した。

二度出て来た彼女は、今度いつまた出て来ないとも限らない。わたくしはむしろそれを待ち設けるような気持で、もし今までのように寝室の出入口などでためらい佇んでいたら、今度は、

「お前大きく美しくなったね。そんなところにいないでずんずんこっちへ入っておいで」

と声をかけてやろうと思っている。この前はあまり不意のことにせっかく出て来たのに、

「お前何だってそんなところに立っているのだ?」

などとまるでそれを咎めるようなことを云ってしまったのは思えば可哀想なことであった。