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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

八年まえ、藩主和泉守信容の叔父に当る丹後信温という人が、江戸家老と組んで藩の政治を紊し、危うく幕府の譴責をかいそうになった。そのとき信温らに対抗しようとした人たちのうち国家老の萱野大学は詰腹を切らされ、ほかに五人の重職が罷免されたり罰せられたりした。三年のち、丹後が軽い卒中で倒れたのを機会に、事があらわれて丹後は隠居、処罰された人々は無実の罪であることが明白になって、それぞれ旧禄を恢復されたうえ、和泉守から慰労の沙汰があった。同時に、信温に荷担した老臣二人と重職三人には、切腹、追放、重謹慎などの罪が科されたが、中にはそれを不服として、「幕府老中へ訴える」などと云う者があり、それははたされなかったけれども、家中にはかなりのちまで、不穏な空気が残っていた。

「事があらわれて丹後さま一味は処罰され、一味によって無実の罪に問われた人々は元の身分を恢復しました、しかし、詰腹を切らされた萱野大学どのを生き返らせることはできないでしょう」と隼人は云った、「――人間のしたことは、善悪にかかわらずたいていいつかはあらわれるものです、ながい眼で見ていると、世の中のことはふしぎなくらい公平に配分が保たれてゆくようです」