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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
十六
穀物で焼け残ったのは米が五俵、ほかに麦や粟などが一石足らずということであった。
「こうなると、かけはしがいよいよ大事になりましたな」と岡村七郎兵衛が云った、「雪の来ないうちに来年四月までの食糧を運ばなければならないでしょう、運びきれますかね」
「かけはしは明日やるよ」と隼人は云った、「運びきれなかったら雪が来たって運ぶまでさ、岡村は番があいたんだから、そんな心配をすることはないだろう」
「番を延ばすことができますよ」
「そんな必要はないさ」
「面白いな」と岡村が云った、「町奉行へ願い出れば番を延ばすことができるし、それを拒む権限は貴方にはないんですよ」
隼人はじっと岡村七郎兵衛の眼をみつめ、それから云った、「おまえはいったいなにを考えているんだ」
十六
「なんにも」と岡村は首を振った、「なんにも考えてなんかいやしません、どうやら貴方の側のほうがいごこちがいいんでしょう、そんなところらしいですよ」
「ばかなやつがいるものだ」
「でしょうとも」と岡村が云った、「なにしろ朝田隼人の後輩ですからね」
隼人は立ちあがって、外出の支度をした。
「これからおでかけですか」
「ちょっとぶろうをみまって来る」