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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

八

八

墓地は五百坪ばかりの広さで、四方を檜の生垣で囲んであった。岩屑を集めたものか、赭みを帯びたあら土が、ところどころ饅頭のように盛上げてある。それはまだ新しいのであろう、そのほかは盛上げた土も平たくなり、墓である標だけのように、長さ一尺、幅三寸ばかりの板が立っている。近よってよく見ると、その板の表面には、死者の俗名と、死んだ年月日が書いてあるだけで、法名のあるものは一つもなかった。隼人は順に墓標を読んでいった。松造、何年何月何日。はる、何年何月何日。すが。――こばな。――女名前のほうが多いようだし、古いものは字がうすれたり、まったく消えてしまったりして、判読もできないのがずいぶんあった。

隼人は中ほどに立停り、墓とはいえないその墓の群を眺めまわした。

「たとえ金石で組みあげた墓でも、時が経てばやがては崩れ朽ちてしまう」彼は口の中で、墓のぬしに呼びかけるように、呟いた、「――死んでしまった貴方がたには、法名が付こうと付くまいと、供養されようとされまいと、なんのかかわりもないだろう、そういうことはみな生きている者の慰めだ」

隼人は深く長い溜息をついた。