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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

みんな稽古用の安価な品ではあるが、その荷を解いてひろげたとき、番士たちは不審そうに集まって来た。

「どうなさるんですか」乾藤吉郎といういちばん若い番士がたのしそうに訊いた、「みんなで稽古をして合奏でもするんでしょうか、私はちょっとなら三味線が弾けますけれど」

「それはいい」と隼人が云った、「そのうち弾いてもらうとしよう」

「いつでもどうぞ」手を擦り合さないばかりの調子で、乾は熱心に云った、「自分ではそれほどうまいとは思いませんけれど、新町では筋がいいって評判だったんです」

「ばかだな、こいつ」と松木久之助が低い声で云った、「新町がよいが祟って山へ来たんだろう、懲りないやつだよ、おまえは」

「みんなに頼みがある」と隼人が云った、「じつは村の者たちにこれを教えたいんだ、私はなにもできない、笛をちょっと習っただけで、それも歌口を湿す程度なんだ、乾は三味線を弾くそうだし、ほかになにかやれる者があったら助けてもらいたいが、どうだろう」

「私が琴をちょっとやりました」と西沢半四郎が云った。

隼人は西沢を見た。西沢を見るときの、あのいつもの眼つきで、それから静かにその眼をそらせながら云った、「琴はきまった、――ほかに誰かいないか」