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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
そのうえ雨の音にまじって、戸外から女たちの声が聞えて来、とだえたかと思うとまた聞えて来る。現実のものかそら耳か、雨の音が邪魔ではっきり区別はつかなかったが、隼人が眠りつくまで、その声は断続して聞えていたようであった。
そういうことがあったため、雨の夜でも立番は欠かさなかったが、女たちがあらわれるときには、あとから必ず正内老人も来た。老人は立番の者を去らせ、女たちが騒ぎ疲れるのを待って、なだめすかしながら伴れ戻る。中にはひどく暴れ狂い、夜の明けるまで柵にしがみついているような者もあるが、老人は辛抱づよく、なにも云わずに側で見ている。そして、女がすっかり精をきらせて、声をあげることもできなくなるまで、待っているのであった。
「どんなに威しても、力ずくでもだめです」とのちに老人は云った、「――ああして暴れたり、喚き叫んだりしているうちに、女たちの血もしずまるのでしょう、二た晩か三晩も続ければ、それで次のめぐりまでおさまっているようです」
これは女たちの、生理的な波に強く支配されるらしい。またその波は互いに共鳴することが多く、騒ぎだすときには幾人かが同時にそういう状態になり、しずまるときも同時にしずまるようである、と老人は云った。