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ちょうとどとう

ちょうと怒濤

小川 未明

「中学生」1922(大正11)年6月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,746 字 · 10 页

青空文庫

けれど、哀れなちょうは、ばらの花に近寄ることができませんでした。人間が、その庭にいたからです。

三日めの晩方、ちょうは、今日こそは、花に近寄って、いろいろの思いを語ろうと思ったのであります。

天気の変わる前兆か、西の夕焼けは、気味の悪いほど、猛り狂う炎のように渦巻いて紅くなりました。

ちょうが、大きな羽をはばたいて、庭さきに降りようとした刹那、真紅なばらの花は、もう寿命がつきたとみえて、音もなく、ほろりほろりと、金色を帯びた夕日の光の中に砕けて散るところでありました。

これを見たちょうは、どんなにうらめしく思ったでしょう。そして、またこの花と語るのはいつであろうとなげきました。ちょうは気も狂いそうでありました。無念と残念とで、もう生きている心地はなかったのです。自分の体は、どうなってもいいというように、ちょうは、絶望のあまり、深い考えはなしに、空高く、高く、どこまでも高く舞い上がりました。ちょうは、下界の有り様を、もはやなにも見たいと思いませんでした。

すると、空には、怖ろしい、烈しい風が吹いていました。ちょうの体は、急流にさらわれた木の葉のように、あっと、思うまもなく、遠く、遠く、吹き飛ばされてしまいました。