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はたしじょう
はたし状
山本 周五郎
「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页
――だがどんな幸福も決して永遠ではない、人間は不幸や悲嘆かられることはできない。
それが逃げ道であるかのように、第二はこう自分に云いながら家の門をはいった。
「藤島からしのさんがみえていますよ」
着替えを手伝いながら母が云った。第二はなにか聞き違えたと思った。だが一時間ばかりまえにしのが来たこと、一生の大事だからぜひ会いたい、会わないうちは帰らないと云い張ったことなど、母は声をひそめるようにして云った。
「第さんにはお悪いと思ったけれど、一生の大事といえばむげにも断われないし」
「――会いましょう、どこにいるんです」
常の袴を穿きながら第二は云った。
「母さんのお客間だけれど」こう云って母は不安そうにこっちを見あげた、「――なにかそんな、間違いのような事でもあったんですか」
「たいした事じゃありません、あとで申上げます」
食事をしてからにしたらと母はいったが、第二は茶を一杯飲んで、内客の間へいった。
しのは火桶から離れた位置に坐っていた。第二は冷やかな眼で、無遠慮に彼女を見た。しのは豊かに肉付いた。あの頃のどこか子供っぽい、育ちきらないような感じはもう少しもない。