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ばちあたり

ばちあたり

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页

青空文庫

姉はくしゃくしゃになった手帛で鼻を押えた、「――それじゃああんまりだわ、それじゃあおかあさんがうかばれやしないじゃないの」

私は啓三を見た。こういうときに、啓三の受け止める感受性はみごとなものだ。彼は私の眼を見るなり、私が云いたいと思うことそのままを姉に云った。もしもそれで姉の気が済まないのなら、分骨をしたうえ東京へ持っていって、姉の望むような弔らいをすればいいだろう。いまは田舎でも習慣が変っているようだし、寺の住職までそんなふうだとするなら、ここは敏夫の思うとおりにするほうがいいと思う、と啓三は巧みな身振りと、味のきいた言葉とで姉を説得した。

「そんならお葬式はどうするの」と姉は譲歩した、「まさかあたしたちで焼場まで担いでゆくわけじゃないでしょ、あたしそのために喪服を持って来たんですもの」

「それを云うことはないですよ」と啓三が云いかけ、私の顔を見て口をつぐんだ。

「敏夫」と私は呼びかけた、「ちょっと歩きに出ないか」

敏夫はゆっくりと私を見た、「なにを心配してるの、ぼくのことなら心配はいらないよ」

「ちょっと歩きに出ないかというんだ」

「まあ坐っていて下さい」