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ばちあたり

ばちあたり

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页

青空文庫

敏夫は啓三の隣りにあぐらをかき、腕組みをして炉の火を見まもっていた。

「健さん聞いて」と姉が云った。

私は坐ってから、そこが脇座といって、家長の坐る場所だということに気づいた。

「敏夫」と私はできるだけくだけた調子で呼びかけた、「ここは君の坐る場所じゃあないのか」

敏夫は火を見たままで首を振った。

「とうさんですよ」と彼は云った、「かあさんはそこへ毎晩、とうさんのかげ膳を据えていましたからね」

「とはまた古風だな」と啓三が云った。

「健さん」と姉が云った。

「聞きました」と答えて、私は敏夫を見た、「敏夫、――おまえ本当にかあさんとそう話しあったのか」

敏夫は頷ずいた。頷ずいてから、やはり火を見まもったままで、下唇を噛んだ。すると、無精髭の伸びた頬が抉ったようにくぼみ、ぼさぼさの髪が額へ垂れかかった。

「姉さん、敏夫の好きなようにさせてやりましょう」私は姉のほうを見て云った、「――十幾年もいっしょにくらしたんだし、東京にいた私たちにはわからないこともあるでしょう、かあさんがそれでいいと云ったというなら、それを信じてやるほうがいいじゃありませんか」

「健さんまでがそんなことを云うの」