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ばちあたり

ばちあたり

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页

青空文庫

「理屈も理由もありません、そう思ったからそう思ったと云ったんです」

「まあおちつけよ」啓三は押しなだめるような手まねをした、「ちょっとおちついてものを云ってくれ、いいかい」と云って啓三は唇を舐めた、「君の云うとおりおれたちはいそがしい体だ、ことにこの年の暮で、自慢するようだがおれの体は一時間が何万円にもつくんだ、しかしたった一人のおふくろが死んだんだよ、東京からここまでやって来た以上、通夜もしない葬式も送らないで帰れるかい」

「それだけじゃないわ」と姉が割込んだ、「あたし帰るときにはあんたを伴れてゆくつもりなのよ」

敏夫はぼんやりと前を見ていた。生気のない骨張った顔は無表情だし、その眼にもなんの反応もあらわれていなかった。

「敏夫」と姉が云った、「おまえあたしの云うこと聞いてるの」

「つまりません、そんなこと」と敏夫は精のない口ぶりで答えた、「かんじんのおふくろが死んじゃったんだから、なにをしようったって始まりゃあしない、ぼくも一巻の終りだし、自分のことぐらい自分でやりますよ」

「じゃあ東京へはいかないっていうの」

敏夫はうつろな眼で姉を見た、「――東京へですって、ぼくが」