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ひとでなし
ひとでなし
山本 周五郎
「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页
んですわ、きっと」
「そうね、そのくらいのことはあったかもしれないわね」おようはどこを見るともない眼つきで、壁の一点を見まもりながら、ふと溜息をつき、「人間の気持っておかしなものね」と云った、「あの人とは古い知合なのよ、幼な馴染といってもいいくらいよ、それでも、もしあの人に浮気めいた気持があったとしたら、あたしお世話にはならなかったわ、そう、五年まえの夏だったわね、あたしはまえの人のことでにっちもさっちもいかなくなり、いっそ死んでしまおうかと思っていた、尤も死のうかと思ったことは二度や三度じゃなかったけれど、そのときはもう生きているのがいやになってしまったのよ」
「そこへ津ノ正の旦那が」
「いいえ、あたしのほうからよ」おようは自分の傷を見せるような口ぶりで、「あたしのほうからいったの」と云った、「やましい気持がちょっとでもあったらいけやしない、そんな気持は少しもなかったの、それまでにもたびたびお世話になったことがあるから、死ぬまえにひと眼会いたいと思っただけなのよ」
おつねは髪毛の根をたばね、元結でしめながら、このくらいでどうかと訊いた。