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めおとちょう
めおと蝶
山本 周五郎
「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页
人間に……」
良平はそこで言葉を切った。廊下をいそぎ足に来る音がする、それは障子の外で止り、囚獄方から使が来たと伝えた。
「――囚獄から使者」
良平は首をかしげた。
「急を要しますので、お玄関までと申すことでございます」
よしゆくと云って良平は立った。どういうつもりでもない、一種の直感にひかれて、信乃はそのあとからついてゆき、玄関脇の襖の蔭に身をひそめた。
「――なに破牢、牢を破ったというのか」
驚愕したような良人の声が聞えた。
「――牢番に内通者があったようでございます、巽口で三名捕えましたが、あとは、……お城の搦手へぬけたらしく、……御門の人数は倍増しに致しまして、……町奉行の手の者も」
そう云う使者の声もとりみだしていた。信乃は足音を忍ばせてそこを離れ、良人の居間へ戻って坐った。
――破牢、――知也さまだろうか。
牢舎は城外にもある。庶民を入れるもので、鉄砲馬場の北の、刑場の森の中にある、城中のは侍だけのものだが、どっちで破牢があったのだろうか。……信乃はなにを祈るともなく祈るような気持で、しんと頭を垂れながら眼をつむった。良平はすぐに戻って来た、そうして立ったまませかせかと云った。