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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

良平は足を止めて、眼をしかめながら、不審そうにこちらを見た。

「お待ち申しておりました」信乃はこう云って良人を見あげた。良平にはまだわからないらしい、俯向いてそっと頭を振り、それから改めて信乃を見て、そうしてとつぜん、激しく顔を歪めた。

「――信乃、どうするのだ」

「ごいっしょにお供を致します、あなたのお支度も持ってまいりました、どうぞお着替えあそばして」

「――離別状は届かなかったのか」

「わたくしが至らなかったのです、わたくしが、身勝手な、いけない女でございました、でもこれからはなおしてまいります、きっと良い妻になれると思います、お願いでございます、あなた、どうぞ信乃をお伴れ下さいまし」こう云って袂で顔を掩い、信乃は肩を顫わせて嗚咽した。……良平は黙っていた。しかし信乃の云うことはわかったのだろう、暫らくして、そっと独り言のように、

「――伴れていっては、おまえを不幸にする、拒むのが本当だ、拒まなくてはいけない、けれどもおれには拒めない、……おれはおまえにいて貰いたい、この世の中で、おれにはおまえが唯ひとりの味方なんだ、信乃、……いっしょに来て呉れるか」