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めおとちょう
めおと蝶
山本 周五郎
「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页
「あなた、うれしゅうございます」
信乃は叫ぶように云って、良人の胸へ縋りついた。良平は持っていた編笠を投げ、両手で妻の肩を抱いた。
「おまえがいてくれればおれは生きることができる、もう一度、……」
そして彼は激しく妻を抱き緊めた。
それからまもなく、旅支度に改めた良平と信乃が、畑に挾まれた道を、伴れだって、東に向って歩いていた。春の日はきらきらと暑いほど輝き、畑いちめんに咲いた菜の花の黄が、まるで燃えるようにうちわたして見えた。
「――甲之助は大丈夫だな」
「はい、すぎと母が見て呉れます、……わたくしたちがおちつきましたら、迎えにまいりましょう」
「――明るい、勿体ないほど、明るい景色だ」
「初めてでございますわね」
信乃はこう云って、媚のある笑いかたで良人を見あげた。
「あなたとわたくしと、二人で、こうしていっしょに、旅へ出ますのは、……うれしゅうございますわ」
菜畑からそれて来た蝶が二つ、良平と信乃のあとを追うように、楽しげにひらひらと舞っていった。