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めおとよろい
めおと鎧
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年1月号
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页
四
それまでに二日かかった。淀でようすをきくと家康は伏見城にはいず、川をへだてた向島の第に移っているとのことだった。かえって孫兵衛のためには、仕合せである。かれは巨椋池のほとりにひそんでいて日が暮れてから家康の第をおとずれた。
本多中務の家臣に、平林大膳という知りびとがいたので、そのとりなしで好都合に家康と会えた。対面はさしむかいで、ひとりの扈従もなくおこなわれた。家康は黙って封書をひらき、燭台のほうへ傾けて読んだ。……孫兵衛は、そのおもてをじっとみつめていた。
四
家康は、そのとき五十八歳だった。小づくりのからだは老年の肥えかたをみせはじめていたが、日にやけた肌はつやつやと張っているし、白毛をまじえた厚い眉にも、細くてつぶらな双眼にも、いく十年の霜雪をしのんでようやく円熟の境に達した人の、おおらかに重々しい風格がにじみ出ていた。密書の内容は伝わっていないが、その翌年、関ヶ原合戦というかたちで現実となったその企劃の誘いであることだけは、たしかだった。家康は読みおわると、すぐに、燭の火をうつしてそれを灰にした。短刀は吉光の九寸五分、三成が秘蔵の品として名だかいものである。