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めおとよろい

めおと鎧

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年1月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页

青空文庫

「わたくしは……大丈夫でございます」「よし、ではもうひと我慢、その鎧をぬいでくれ」無理だとは思ったが、抱き起して鎧をぬがせた。脇壺がいたましい槍瘡だった。眼をつむって、妻の血に濡れた鎧を着た。「では屋代、ゆくぞ」

「…………」妻は燃えるような眸子をあげて、くいいるように良人を見た。「ご武運めでたく」

「……死ぬなよ」云いきると共に、かれは決然と乱軍のなかへ斬って行った。

午の刻までは、東軍の苦戦だった。どちらかというと圧迫され、あるときは家康の本陣までが、危うくみえた。雨あがりの戦場は、軍馬のためにこね返され、斬りむすぶ兵たちは、敵も味方も泥まみれだった。孫兵衛は、島津惟新の隊へまっしぐらに斬りこんでいた。それはまったく捨て身のたたかいだった。むらがる敵中へ、まったく単身で挑みかかったのである。「左京大夫浅野幸長の家臣、香田孫兵衛」かれの叫ぶなのりは、どよめきあがる喊声のなかに、幾度も高くひびきわたった。するとそれにつづけて、「おなじく菊岡弥五郎としのぐ」というなのりが聞えた。――弥五郎! 孫兵衛は、殴りつけられたように感じた。かれは声のしたほうへふりかえった。