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ものおもうあし

もの思う葦

太宰 治

――当りまえのことを当りまえに語る。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,430 字 · 42 页

青空文庫

難解

私たちより四十も多く夏に逢い、四十回も多く花見をし、とにかく、四十回も其の余も多くの春と夏と秋と冬とを見て来たのだ。けれども、こと芸術に関してはそうはいかない。「点三年、棒十年」などというやや悲壮な修業の掟は、むかしの職人の無智な英雄主義にすぎない。鉄は赤く熱しているうちに打つべきである。花は満開のうちに眺むべきである。私は晩成の芸術というものを否定している。

難解

「太初に言あり。言は神と偕にあり。言は神なりき。この言は太初に神とともに在り。万の物これに由りて成り、成りたる物に一つとして之によらで成りたるはなし。之に生命あり。この生命は人の光なりき。光は暗黒に照る。而して暗黒は之を悟らざりき。云々。」私はこの文章を、この想念を、難解だと思った。ほうぼうへ持って廻ってさわぎたてたのである。

けれども、あるときふっと角度をかえて考えてみたら、なんだ、これはまことに平凡なことを述べているにすぎないのである。それから私はこう考えた。文学に於いて、「難解」はあり得ない。「難解」は「自然」のなかにだけあるのだ。文学というものは、その難解な自然を、おのおの自己流の角度から、すぱっと斬っ(たふりをし)て、その斬り口のあざやかさを誇ることに潜んで在るのではないのか。