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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页
そう云って、井深君は急に真面目な顔をした。
「理由?」
「うん。……君は今、私のタイピンの事を云ったね。このタイピンがその理由なのだ。まあ聞きたまえ。面白い話なのだから……」
「え、聞かして――」娘もちょっと面喰った様子で、井深君の顔とそのネクタイピンをば見くらべた。
「去年の春だよ。或る日、日が暮れたばかりでね、私はやっぱり銀座通りを散歩していた……」と井深君は両手の指を膝の上でくみ合せ乍らストオヴの方へ向いたまま話しはじめた。
「何時ものように、一っぺん新橋の橋の袂迄行き尽して、また引き返そうとした時だった。私はふとあすこの博品館の横手の薄暗がりの中に、ぼんやり立って、どうやら泣いているらしい恰度君位の背恰好の女の子の姿を見出したのだ。身形はと云うと、お河童で橙色のジャケツを着て――つまり、君の今のなりと同じようなのだね。悪く思っちゃいけないよ。大して変った風と云うわけじゃなし、同じ身形の人が一人や二人いたって、ちっとも不思議はないさ。――で、ともかく私はその女の子のそばへ行ってきいてみた。女の子はやっぱり泣いていた。そして、姉さんと一緒に銀座迄買物に来たのだが、はぐれてしまって、電車賃もないし、家へ帰れない――とこう云うのだ。