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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页
……五十円なんて!――五円もあれば沢山。ほんとに五円もあればいいの……そうすればこの毛糸の上衣の穴が隠れる位の襟巻が買えるから。」
そうして娘は両手をジャケツの穴のところへ当てて、巧みに目ばたきをさせながら笑って見せたのである。井深君はそれを見ると一層ひどく可哀相になった。
「私が上げたくて上げるのだから、へんな風に遠慮なんかするものではないよ。ね、取ってお置き。」
「嫌。あたし、ほんとに要らないんですもの。……まあ、あなた! とてもいいネクタイピンをしていらっしゃるわね。」
娘は両手を肩に当てた儘、その肱をテーブルの上につき乍ら井深君の胸に目をつけてふとそんなくっ着かない事を云った。
「これかい?――」
「ええ。ダイヤモンドでしょう。あなた、なかなかおしゃれね。」
「――そんな事はどうだっていいじゃないか。それよりも早くこのお金をおしまいなさい。」
「嫌。あたし、そんなに沢山嫌よ。下さるのなら五円でいいの。」
「強情っぱりだね。けれども私だってもっと強情っぱりだ。どうしても取らなけりゃ承知しないよ。――なぜと云って、これには私としてみれば立派な理由があるのだからね……」